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アイレス
 ニコンがDfというクラシカルデザインのデジタル一眼レフを発表した。その賛否はともかく、大昔のレンズを使う事を考慮した設計になっている点は良いコンセプトだと思った。メーカーとしては常に最新のものを買わせたいのが本音だろうけれど、昔のものを大事に使っていける土壌もないと味気ないジャンルになっていきそうだとは思う。

 私は一時期レンジファインダーカメラを立て続けに買っていた時期があった。昭和二十年代から四十年代にかけて日本には今の何倍ものカメラメーカーがあって、その時代にのみ存在していたメーカーに興味が湧いた私は、いくつかのカメラを購入候補にしていた。その中から実際に手に入れたカメラのひとつが今回紹介する「アイレスバイカウント」というカメラである。

 アイレスは東京の高田馬場に工場を持ち、昭和二十年代から三十年代に活動していたメーカーだ。新宿のカメラのきむら(現カメラのキタムラ)でその名の付いたカメラをよく見かけていたのでブランド名は以前から知っていた。クラシックカメラに興味を持つようになり、調べていくうちにファンになったという経緯である。興味を引いた理由のひとつがその名前の響きの良さだが、アイレスはスペイン語で「空気」を意味する。自社製であるレンズにはコーラル(珊瑚)という名前を付けているから、そのネーミングセンスには関係者の美学のような拘りを感じる。そういうメーカーだから、カメラのデザインも同時代の他社のものと比べて洗練されているように感じたりもする。

 今は廃刊になっている雑誌「クラシックカメラ専科」にはアイレスを特集した号があって、この時代の「今はなき日本メーカー」の中でも特別な存在のひとつである事が伺える訳だけれど、実際アイレスのカメラは非常に作りが良く、レンズの良さにも定評があったそうだ。二眼レフの「アイレスフレックス」はアイレスの代表作だが、このカメラには自社製レンズの他に日本光学(ニコン)のニッコールレンズを搭載したモデルが存在する。ニッコールレンズはブランド品であるから、頼めばどのメーカーでも使えた訳ではなく、日本光学が信頼を置いたメーカーでなくてはならない。アイレスのカメラ作りのクオリティの高さゆえに実現したのであり、ニコンは二眼レフはやっていなかったので結果的に「ニッコールレンズの付いた二眼レフ」という稀有な存在に成り得た。このエピソードはまさにアイレスのカメラの品質を物語るエピソードである。

 そんな予備知識を持って、ネットオークションで手に入れたこのアイレスバイカウント。出品者の方はリアルタイムでアイレスの時代を知っているかもしれない超ベテランの方だったが、そのため手入れの行き届いたとても綺麗な状態でやってきた。ファインダーもとてもクリアで、何より巻き上げレバーのしっかりとした感触は昭和三十年代製という古さはまったく感じられず、アイレスというメーカーがいかに優秀な設計者と優れたカメラ作り職人を持っていたかがわかる素晴らしさであった。

 カメラの作りの良さに感激した私は、コーラルという美しい名前のレンズの写りも知りたくなり、早速アイレスを持って浅草に出かけた。現像から帰ってきたプリントを見て驚いた。キメ細かい描写、逆光耐性も高い。アイレスフレックスに於いてコーラルはニッコールにも負けず劣らずの実力だったという話も聞いていたが、それは確かであったと言えそうだ。

 アイレスは活動していた期間が二十年に満たないメーカーなので、コレクション出来そうなほど種類も程よい数だ。そして、集めたくなるようなクオリティを持ったメーカーである。作りのしっかりしたカメラだけに、フィルムを入れずに操作しているだけでも楽しくなってくる。今も存在していたらどんなカメラを作っていたのだろうか?なんて思ったりもするが、今の時代性とは対極にある存在感が妄想を止めてしまい、今はないからこそ輝きがあるようにも思う。
(撮影はOLYMPIS E-PL1 撮影地横浜)
 
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2013.11.09 Sat l カメラエッセイ l コメント (2) トラックバック (0) l top

コメント

今日買いました
はじめまして、広島県民のあずきと申します。
きょう、なんとなしに妖気のような気配を感じて、地元の写真屋さんに寄ると、聞いたことのない でも 上品で期待してよさそうなカメラがあったので買い求め
それが何なのか検索してこちらを拝見しました。

アルファ様のレンズはQって書いていますね
私のはHとありレンズの仕様が違うのかもしれませんね。
2017.11.19 Sun l 聖護院アズキ. URL l 編集
No title
コメントありがとうございます。

はじめまして。お読みいただき、ありがとうございました。
アイレスバイカウントを購入されたのですね。記事にも書きましたが、巻き上げレバーのスムーズな感触、きれいなファインダーなど、とても品質のよいカメラを作っていたメーカーです。写りもとても好みでした。
レンズのアルファベットはレンズの枚数です。Qは4枚。Hは6枚で、絞り開放値が、QコーラルがF2.8、HコーラルはF1.9の後期型だそうです(クラシックカメラ専科22号愛生レス特集号より)。
なので、写りは私のより更に良いかと思います。アイレスカメラ、所有欲を満たす逸品だと思います。
いつか、このカメラで瀬戸内海の沿岸の町を撮ってみたいものです。
2017.11.20 Mon l アルファ. URL l 編集

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