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中津
 夜の中津は雨だった。予約したホテルは駅のすぐそばだったので支障はない。チェックイン後、傘を持って食事に行く。
 駅前に古びたアーケードがあり、そこに飲み屋が集まっている。ここで選ぶことに決めた。一軒の寿司屋が気になった。中津は海の町である。入ってみるとおばあさんが一人だった。板前が休みなのだろう。今日は月曜日だ。
 はも天丼を頼むと、おばあさんが奥の厨房に入り自ら作ってくれた。天ぷらも漬物も味噌汁も何もかもが素朴な田舎の味。そんな気がした。
 壁に城の写真が飾ってある。おばあさんと中津城の話をした。「小さな城」と謙遜する。城下町に住んでいない者にとっては、城、それも城好きには知られた城が地元にあるという事は素晴らしく羨ましい事である。
 翌日、簡単に身支度だけして散歩に出た。中津駅から中津城までは徒歩20分くらいと見越して歩き始めた。
 中津駅は降りたことがあるが、町を歩くのは今回が初めてだ。道はやがて細くなり、城に向かって左折すると、古い家並みが並ぶ通りが現れた。
 中津城は川のすぐそばに天守が立っている。川が天然の水堀の役目を果たしているのだ。石垣は戦国時代のものと江戸時代のものが混在しているらしい。確かにこじんまりとした天守だが、いい風貌だ。周囲を囲む水堀が情緒ある。
 天守の近くに中津神社がある。参拝して、更に奥に向かう。そこが私の目的地だ。城井神社。城井(きい)宇都宮家という鎌倉時代から豊前国を所領としてきた武家を祀る神社である。
 宇都宮家とは、現在の栃木県の宇都宮あたりを所領としてきた名門武家宇都宮家のことである。実は九州にも親戚がいたという訳だ。
 その城井宇都宮家は、豊臣秀吉の九州征伐によって、四国の今治に転封されることとなった。だが、それを拒み、新たに豊前の主家となった黒田家と戦を起こした。
 戦に勝利した城井宇都宮家だったが、黒田家の謀略によって滅ぼされてしまう。和睦を呼びかけ、中津城に呼び出された城井家の人々と家臣が騙し討ちにあったのだ。
 その後、たたりを恐れた人々によって城井神社が造られたという。善政を行ない、庶民に慕われたという名門武家に敬意を表して祀ったのだ。そういう理由もあると思いたい。私はこの一連の話を高橋直樹さんの短編小説で知ったので、その旨を挨拶に沿えて手を合わせた。
 城井神社を出ると雨が降ってきた。傘を持ってこなかった。足早にホテルに向かう。行きとは違う道を選び、ひたすら駅に向かっているうちに、昨夜歩いたアーケードに着いた。朝なのでひっそりとして歩く人も居ない。そこに猫が佇んでいる。猫はじゃれてきて、遊んでいるうちに、遂には一緒に歩き始めた。名残惜しく声を掛けて駅前に向かう。昨夜入った寿司屋はもうシャッターが開いて今日の準備を始めていた。
(FUJIFILM X100・iPhone5)
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2019.07.28 Sun l 神奈川県以外 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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