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金田一温泉
 九戸城から市街地に出た。バスの時間まで少しだけあるので、岩谷観音堂に行くことにした。
 九戸城の北側を流れる白鳥川。川幅はそれほどないが、流れの速い川である。川に沿って立つ崖の上は城ということになる。その崖に洞窟があり、そこに赤い橋が架かっている。そこが岩谷観音堂である。
 昔、白鳥川が氾濫した時に、川の中から引き上げられた観音像を祀っているお堂とのこと。橋の手前までしか行けなかったので、そこから手を合せて、バス停に向かう。
 呑香稲荷バス停から二戸駅行きのバスに乗り、駅に着いた。二戸駅からはIGRいわて銀河鉄道に乗って、二つめの駅である金田一温泉駅で降りる。
 青森県との県境に近いこともあって、風景は山深くなってきた。「ざしきわらしに会える温泉」らしいが、それが真であるかのようなのどかさがあった。駅は無人駅で、地元の名作家三浦哲郎さんが金田一温泉について書いた作品の紹介が待合室に展示されてあり、他にも様々な掲示物で駅の雰囲気を明るくしようと、地域住民の方々が手入れをしている。
 駅からすぐの所に国道四号線が交差している。その立派な造りの国道を渡り、斜めに馬淵川に沿った小道を往く。途中、鮎の養殖場があった。目指す「ホテル金田一」は国道沿いに看板が出ていた。馬淵川は九戸城と二戸市街のあった所を流れていた川で、二戸の辺りでは中流の趣きがあったが、金田一では川幅も狭まっている。
 少し道に迷いながら、川の側に立つホテル金田一に着いた。鉄筋だが、結構くたびれた感じのある玄関だ。私は昭和レトロ物件が大好きなので構わないが、Tさんはどうだろうか。
 フロントとロビーは一応ある。脇には土産物屋らしき一画もある。とりあえず女将さんと思われる女性に、入浴料400円を払って館内へ。後でわかった事だが、この400円というのは金田一温泉の日帰り入浴可能な宿・施設で一番安い。
 説明されたとおりに、廊下を歩いて建物の奥に向かっていく。ありふれた表現を使えば、何十年も昔にタイムスリップをしたような景色である。突き当たりに浴場があった。左が男性、右が女性だ。
 暗い廊下を歩き、着いた浴場は、窓から射す夕方の弱々しい陽が脱衣所を照らしていた。ロッカーはない。木枠の棚のみである。貴重品はフロントに預けるべきだった。まあ、先客が一人しかいなかったので、ナップザックをそのまま持ち込み、浴室の端、窓枠のそばに置いた。
 窓は随分とくたびれている。割れた箇所がテープ留めされているが、その向こうに見える山々の景色はとてものどかで落ち着く。体を洗って湯に浸かった。
 湯は熱すぎず、ぬる過ぎず。台温泉はやや熱めで、Tさんは熱くて長く入っていられなかったと言っているが、このくらいの熱さならのんびりくつろぐ事が出来る。窓の向こうの風景といい、ゆったりした気分にさせてくれる温泉だった。後で知ったことだが、ここは他の施設とは異なる独自源泉を使っているそうで、それを求めて地元の人たちも入りに来る温泉だそうである。その気持ちはよくわかる。私達が出たあとも、何人かが浴場に向かっていった。
 湯上がりに土産物屋的な一画にあったキリンラガーを買い求めた。女将さんいわく、ロビーのソファでくつろいで下さいとのことで、そこに落ち着き乾杯をした。静かな昭和レトロ温泉で飲む湯上がりビールはとても美味しい。
 Tさんは「今回の旅で入った温泉で一番よかった」と喜んでいる。黄昏の田舎の風景も心に沁みる。来てよかった金田一温泉という気分である。ひっそりとした駅から二戸行きに乗り込んだ。電車は青い森鉄道の車両。つまり、元JR701系。「通勤型を東北に使うなんて」と嘆いていた気持ちは変わらないが、日の沈んでいく二戸の山間を眺めているうちに、そんなことはどうでもよくなった。
 二戸駅前に居酒屋がある。昼に乗った路線バス乗り場のすぐ近くで、ここなら帰りの時間までのんびり出来そうだ。小さなビルの二階にあるその店のカウンターに座る。女将さんが一人で切り盛りしている。南部美人の吟醸があったので注文し、コマイの唐揚げなどを味わう。鶏肉のおひたしが美味しい。女将さんいわく、鶏肉が自慢らしいので唐揚げを注文したところ、とても美味しかった。「もう一泊したい」というTさんの言葉に同感だ。二戸に泊まりたい気持ちを抑えながら、一時間ほどの滞在で店を出た。
 コインロッカーから荷物を取り出し、朝にチェックしておいた駅構内の土産物屋に行く。岩手県の地産品が豊富にあり、店内も明るい。いい店だ。もっと多くの観光客に来てほしい二戸である。
 地酒やワインや土産を買った私達は、駅の売店でおつまみを買い、新幹線乗り場に向かった。構内には九戸城の紹介と九戸政実ののぼりが立っている。地元の英雄なのだ。先ほどの土産物屋にも九戸政実コーナーがあり、政実を有名にした小説「天を衝く」のロゴが入ったTシャツも売られていた。
 私達は東京行きの新幹線の車内で二次会を始めた。駅の売店で買ったカキとホヤのおつまみが美味しくて、あっという間に食べtしまった私達は、車内販売のお姉さんからホヤの干物を買い求め、あっという間の二時間半を過ごした。
 まだ物足りない。旅の余韻に浸りたい。そんな気分のまま、上野駅の地上ホームのベンチに座り、Tさんがお土産のつもりで買ったワインを開けた。この地上ホームからは、かつて東北方面の特急や急行が多く発着していた。旅情溢れるホームは、ひっそりと佇み、まだ心は東北に残ったままの私達を迎えてくれるのだった。
(RICOH GR)
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2018.10.11 Thu l 神奈川県以外 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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